27(S2)1230

私は目を覚ますと、密室にいた。壁に沿うように設置された長いソファ。窓は沢山あるものの、外は殆ど真っ暗である。そして、どうやらこの部屋は移動しているようだと分かった。部屋にいるのは自分だけのようだが、夥しい数の何かの存在感を感じた。そして、その中の幾つかが何か声を発しているようだった。その当時、私は言葉をひとつも知らなかった。この光景が怖くなって体が動かなくなった。早くここから出たい、でも出口が見当たらない。呼吸が不安定になる。どうしよう、苦しい。苦しい。

そう思っていると、向こうの壁にある扉が開いた。私は急いでその部屋から飛び出した。

賑やかな声がとても怖い。それを発する存在が目視できないからだ。

「イナリチョ〜、イナリチョ〜……」

目の前の壁に書かれた「イナリチョウ」の文字。これが私がのちに名乗る「イナリ」の由来になる。