2つの「自己肯定感」

 先日「自己肯定感をつけるといいですよ。そのためには成功体験をするんです」と言われた。僕はその言葉に物凄く違和感を覚える。なぜなら、心理学を学んでいる人達の話では「自己肯定感というのは成功体験で得るものではない」というのが総意であると聞いているからだ。毎週僕の話を聞いてくれている心理カウンセラーの方も「成功体験で得れるものは、成功体験の半分の要素でしかない」と言っていた。今回は、心理カウンセラーの方々が言う「自己肯定感」と、一般名詞化された方の「自己肯定感」について記述したい。

 

 まず、前者の心理学的な自己肯定感についての説明を以下に自分なりにしてみる。

 

自分の出来る事や出来ない事、やっていることややっていない事の全てをひっくるめて肯定できる事。

 

 そう、出来ていようが出来ていまいが関係ない。何だったら、成功体験が無くてもいい。むしろ成功体験ができていない自分も肯定するのだ。この「肯定する」の部分は、人によっては「そんな自分でも価値があると思う」とか、「出来ない自分を諦めて受け止めてあげる」とかの別の表現をされる。

 

 さて、本来の使い方と違う使い方をされてしまった自己肯定感という言葉。なぜこうなってしまったのか。それは、自己肯定感という感覚の難しさにあると思う。出来ない自分を肯定するというのは、本人の健康状態や環境によって難易度が急激に上がってしまうのだ。もっと分かりやすく自己を肯定する感覚を得るには、成功体験が真っ先に思いつくのだ。家族を納得させたり、周囲の人間に認められれば、肯定してもいい気分になれる。これが一般名詞化された方の「自己肯定感」であり、心理学的には「自己効力感」と呼ばれるものだ。よく自己啓発の本で聞きそうな表現だと思う、読んだことはないが。もちろん、その状態も決して悪い状態ではない。しかし、心理学的に言う「自己肯定感」とは意味合いが離れてしまっている。結局その肯定感も、条件付きの肯定感に過ぎないのだ。

 

 では、その自己効力感の意味で使われている自己肯定感という言葉は誤用として訂正していかなければならないのか。僕の現時点での答えは、いいえ、だ。言葉の意味というのは結局絶えず変化するものなのだ。日本語話者が日常的に使っている「キャリア」という言葉も、元々の英語圏での「career」は「(伸びしろのある)職業」という意味だとニックちゃんねるのニコラス・エドワード氏が仰っていた(1)。このように、あるところから用語が引用されて、いつの間にか本来とは違った意味での使われ方をされてしまうのは世の常なのだ。以上のことを踏まえて、僕は両方の意味を知った上で文脈でどちらの意味を使っているのかを感知することにした。因みに僕は、心理カウンセラーの言う方の自己肯定感が欲しい。

 

じこ-こうていかん【自己肯定感】

①出来不出来に関わらず、自己を肯定する事。

➁自分には出来ることがあるという自信を持つ事。自己効力感。

(ブログ主の解釈です。実際の意味とは異なる場合があります。)

 

(1) https://www.youtube.com/watch?v=5nmd3O9t-PY

27(S2)1230

私は目を覚ますと、密室にいた。壁に沿うように設置された長いソファ。窓は沢山あるものの、外は殆ど真っ暗である。そして、どうやらこの部屋は移動しているようだと分かった。部屋にいるのは自分だけのようだが、夥しい数の何かの存在感を感じた。そして、その中の幾つかが何か声を発しているようだった。その当時、私は言葉をひとつも知らなかった。この光景が怖くなって体が動かなくなった。早くここから出たい、でも出口が見当たらない。呼吸が不安定になる。どうしよう、苦しい。苦しい。

そう思っていると、向こうの壁にある扉が開いた。私は急いでその部屋から飛び出した。

賑やかな声がとても怖い。それを発する存在が目視できないからだ。

「イナリチョ〜、イナリチョ〜……」

目の前の壁に書かれた「イナリチョウ」の文字。これが私がのちに名乗る「イナリ」の由来になる。

ワインによる寓話

酒井「私の名前は酒井周平、35歳。8年前からワインにハマっていて、今ではすっかりワイン狂です。特に赤ワインが好きでね、月に13本は空けます。今日は行きつけのワイン屋で、赤ワインを買いに行きます。あ、因みにこの世界ではワインが擬人化して登場します。」

 

店員「いらっしゃいませ」

酒井「今日も赤ワインを」

店「でしたらこちらはどうでしょう?」

ワインA「初めまして。シャトー・ディケムです」

酒「・・・?」

店「お客様、いかがなさいましたか」

酒「すみません、これ白ワインじゃないですか?」

A「いいえ、私は赤ワインです」

酒「いやいや、どう見ても赤じゃないですよ」

店「まぁ、本人が赤ワインですって言っているから赤ワインなんです」

A「はい、れっきとした赤ワインです」

酒「意味が分からないんだけど」

店「お客様、大変失礼いたしました。申し遅れましたが、本日より当店ではワインの色自認を尊重する運動に賛同しておりまして。ワインが自認している色で紹介しております」

酒「あぁ…聞いたことがある。カラーマイノリティを守るとか訳の分からないデモ活動がニュースになってたな」

店「では、こちらのワインにいたしますか?」

酒「ちょっと待ってくれ。赤ワインが欲しいんだ」

A「私が赤ワインですが?」

店「お客様。こちらは正真正銘の赤ワインです」

酒「わかった。じゃあ他のワインは無いのか?」

店「ではこちらはどうでしょう?」

B「シャルドネ・キュヴェ・キャスリーンです」

酒「あれ?でも、確かに赤い。すみません、試飲できますか?」

店「どうぞ」

酒「ごくっ…味は白じゃないか。そのブランド名自体が白ワインだし。まさか、何か混ぜたか?」

B「私は色転換加工を受けました。自分の色自認に身体を合わせたんです」

酒「ふざけんじゃねーよ!ただ食紅を混ぜただけじゃねーか!いいか、店員。普通に赤ワインを出せって言ってるの!」

店「お言葉ですがお客様、大変古い考えをお持ちのようで。なぜ故に色にこだわるのでしょうか?本当に大事なのは、色よりもワインそれぞれの特性ではないですか?」

酒「赤と白じゃ全然違うって分からないのか!?」

C「どうしたんですか!?やけに騒がしいですけど」

店「あぁ、シャトー・シュヴァル・ブラン。今、おかしなお客様がいらして」

酒「あ、このワインはちゃんと赤じゃないか。なぜ早く紹介しなかった」

店「あぁ、このワインは…」

C「わたし、赤でも白でもないんです。無色ワインという言葉がありまして。どうやらそれらしいんです」

酒「いやいや、君は赤ワインだよ。俺が欲しかったのは君だ」

C「すみません、私は無色なので。赤ワインとして扱われるのは大変不愉快です」

酒「いや、だって赤ワインでしょう?」

C「うぅ…」

店「泣いちゃったじゃないですか。もうこれ以上迷惑をかけるようでしたらお帰りいただけますか」

酒「あぁいいよ!こんな店出てってやるよ!他のワイン屋で、赤は赤、白は白で出してくれる店に行くから」

店「そんな店、この街にはもうありませんよ。あるとしたら、隣の隣の隣の村になると思います。まぁ、そこも時期に色自認を認めるでしょうけども」

酒「……あぁーっ!もうワインはコリゴリだ。明日からはワインなんて辞めて日本酒にでも乗り換えてやる」

C「…今なんて言いました?」

酒「だから、ワインが嫌だから日本酒に…」

C「それだわ!私は赤でも白でもない、日本酒なんだわ!」

酒「へ?」

C「やっとわかりました。私は、シャトー・シュヴァル・ブラン大吟醸よ!」

酒「……はぁ。すみません。この大吟醸下さい」

店「かしこまりました」

 

【終わり】

 

昨晩の就寝前に思いついたネタを今日書き起こしてみた。

我ながらよく分からない内容。

そして、ワインについては全く知らないので、適当に名前を調べてコピペしました。

ごめんなさい。

今作ってる物語の大体の流れ

【タイトル:団栗戦士(どんぐりせんし)フレンジャー

 「はぁ…はぁ…」
 未曽有のことが起きている、楢葉優(ならはゆう)が全力疾走している。135cmの体から四肢が千切れるような勢いだ。

 優がコンビニの前を通過しかけたとき、クラスメイトの廣野栄治(ひろのえいじ)と鉢合わせた。優はとても気まずそうにしている。
 「よお、ゆうやん。お前もグラナ假面(かめん)に会いに行くのか?」
 「えーっと……てことは、廣野くんも?」
 「奇遇だな!じゃあ、一緒に行こうぜー!」
 (最悪だ。廣野くんに付き合わされる)
栄治は右手で優の左腕を引っ張りながら市民ホールへ向かう。

 グラナ假面とは、古園(ふるぞの)市周辺では有名な假面ヒーローである。誰が言い出したのか、「平和を守る子モモンガ、グラナ假面」というキャッチコピーがある。そう言われるように、モモンガのような形の青いスーツと赤い鉢巻のようなマスク。怪力と浮遊能力で、地域一帯でボランティア活動をしている。

 ホールでは、地元テレビ局のアナウンサーとの対談、サイン&握手会が行われた。子供から大人までのファンを擁するグラナ假面、大盛況で幕を閉じた。帰り際、栄治は先に帰り、優はホール内のトイレに行った。トイレから出ると、自分以外は先に帰っていったようだ。
 「僕も帰らなきゃ」
と言った次の瞬間、さっきまでイベントが行われていた大ホールからパーンと音が聞こえた。

 なんだか嫌な予感がしたが、優は恐る恐る扉を開けて覗いてみた。なんと、グラナ假面がステージ上でパイプ椅子に縛り付けられている。黒ずくめの大人たちが十人ほど囲んでいる。
 「お前の力を、俺たちが利用したい。もし断れば、わかるな?」

 (どうしよう、でも、僕にはどうすることもできない)
そう思って涙を流しながら見ていると、グラナ假面が優の顔をしっかり見ているように見えた。すると、何かが爆発したように煙が立ち込め、マスクの破片が会場内に飛び散る。


 そのうちの一片が優の額に張り付く。優はそれを手に取って泣いた。気配を察知した悪党の一人が銃を持って優に近づいてくる。涙がマスクについた瞬間、閃光が走った。
「安心して、僕はまだ死んでない。僕が復活するまで、優に僕の代わりをやって欲しいんだけど、いいかい?」
グラナの誘いに少し戸惑ったが、
「……はいっ!」
と優は元気に答えた。
「よし、今日から優はドルナ假面だ。街をよろしく!」

 閃光が消えると、今まで誰も見たことの無い仮面ヒーローがそこにいた。真っ赤な目出し帽で、背中には無数の針。正義を燈すヤマアラシ、ドルナ假面の誕生だ。

※ドルナ(形)〔エスペラント dorna〕 針のような。とげのある。
 (トゲトゲ仮面みたいな意味)

 背中の針を取ると、炎をまとった。それを悪党に投げて刺す。悪党たちはたまらず退散した。
警備員たちの縄を解き、残りの假面の破片数枚を回収した。

 次の日から、ドルナ假面としての仕事が始まった。誰かの助けを求める意志を察知すると、変身者の耳にピピピピッというアラームが聞こえる。その音は24時間、いつ何時鳴るか分からない。

 変身スーツのパワーで最初は元気よくできたが、「助けなんて要らなかったのに!」とか、「助かったけど、うちの子少し怪我してるじゃない!責任取ってよね!」などの心無い言葉もあってみるみる疲弊していくドルナ假面、もとい優。


 (助けて、信五(しんご)……)
優は、親友の大熊信五(おおくましんご)の顔が頭に浮かんだ。近所の公園で知り合って意気投合、以来毎日のように話していた。しかし、最近になって姿を表さなくなってしまった。彼を思えば思うほど寂しさが激しくなる。

 優はもはや意識も朦朧としていて、学校は給食以外の時間は全て寝るという日々が続く。先生には叩き起されても起きないことが多い。ある日、家に帰ると母親にビンタをされた。さっき電話で居眠りの件を聞いたらしい。
「あなたって子はどうして不真面目なの?元気がないから行きたくない?ふざけたこと言わないで。いいから学校に行ってちょうだい。それに最近、風呂の時間とかご飯の時間に呼んでも来ない時があるよね?心配させるようなことをしないで。ねぇ、聞いてる?あなたのために言ってるんだからね」

 震える脚で自分の部屋へ入り、震える手で鍵をかける。
「ヒーローであることは誰にもバラしちゃいけない。誰にも話せない。はぁ、僕にヒーローなんて無理だったんだ。憧れてたから、勢いで「はいっ!」って言っちゃったけど、辞めればよかった。疲れた。僕、もう死んじゃうのかな」
ピピピピッピピピピッ
窓の外は大雨で、家の前の道が川のようになっていた。
「……行かなきゃ」
これが最後の仕事かもしれないと思いながら、重い腰を上げて変身する。

 アラームの聞こえる方向へ行くと、川で溺れている男の子と女の子を確認した。近づいてみると、なんとその男の子は栄治だった。両腕それぞれに1人ずつ抱え、それぞれの家に返してあげた。

 英治はまだ体力が残っているようで、少し掠れた声でこう話した。
「門限を5分破ったからって家に入れて貰えなくてさ。それで宛もなく歩いてたら女の子が川に流されたいたんだ。助けに行ったら、自分も流されちゃったんだ。ありがとう」

 「それは大変だったね。溺れている子を見つけたら、大人か警察に連絡しようね。じゃあ」
そう言って去るドルナ假面。
「なぁ、大丈夫か?ゆうやん」
「うん、大丈夫。……あ」
自分のした失態に気づいた瞬間、優は膝から崩れ落ち意識を失った。

 目を覚ますとそこは昼光の差す自分の部屋だった。そして、何故か英治も居た。
「目を覚ましたか。昨日は病院に連れてって、病院の人がゆうやんに点滴を打ってくれたんだ。その時、何度かゆうやんは目覚めてたけど上の空だったから記憶がないかもしれないな。ゆうやん家の母ちゃんには「俺が強引に連れ回しました、ごめんなさい」って適当に言っといたから」

 優は、栄治には早く帰って欲しいと思っていた。優は栄治が嫌いだ。漫才のツッコミのように激しく背中を叩いたり、体を引っ張ったりするという栄治独特のコミュニケーションが優の体に合わない。栄治に悪意はないため、優は「やめてよ」って言うのも可哀想な気がして言わないでいた。


 栄治は、優に変身スーツを返した。
「ゴメンな、俺が脱がせた。病院に正体がバレちゃマズイなっておもって。本当にごめん。」
スーツな中で服を着れるタイプでよかった、と優は思う。
「このスーツ、どこで手に入れたの?」
「グラナ假面、最近いなくなったよね。実は、グラナが爆発するところを見たんだ。」
「はっ?!」
「テロリストみたいな人達にグラナが囲まれてて、グラナは椅子に縛りつけられてて、こうするしか無かったみたい。その時のマスクの破片のひとつが、この変身スーツになったの」
優は大事に閉まっていた残りの破片を見せながら言う。
「まじかよ」
栄治は信じられない事実に口が塞がらなかった。

 数分の沈黙、それを栄治が破る。
「なぁ、俺にも手伝えることないか?例えば、俺もドルナ假面になるとか。このスーツ着てみてもいい?」
「無理だよ。選ばれた人しか僕しか着れないようになってる」
「じゃあ、さっき言ってたマスクの破片、一枚貸して!」
栄治は破片の一枚を取り上げ、それをじっと見つめる。
すると、例の閃光が部屋を満たした。

 2人の前にグラナ假面が現れた。
「君かぁ。うーん、君に決めるにはまだ判断し兼ねるなぁ」
「どういう事だよグラナァ!」
「君と優とでは相性が合わないというか」
「何でだよ!俺たちこんなに仲がいいのに?!」
全く自覚していない栄治に優は驚く。
(ていうか、栄治は僕のことを仲良しの友達だと思ってたの?)

 「うーん、分かった。とりあえず、栄治は候補として考えておく。どうしても必要になったら、君にも仮面とマントをやろう」
グラナ假面がそういうと、光が止んだ。
「やったあーー!!!」
はしゃぐ栄治の横で、アラームを察知する優。
ピピピピッピピピピッ
「あ、行かなきゃ」
優はすぐに変身して飛び立てるほどに回復していた。優は自覚していないが、3日間もの間意識が無かったのだ。

 ドルナ假面は公園の広場に辿り着いた。以前、市民ホールで見た黒い悪党たちが子供達を人質に広場を占拠していた。
「やめるんだ!子供達を解放しろ!」
空から聞こえたドルナ假面の声に喜ぶ子供達。
しかし、公園を取り囲む悪党たちの銃撃に遭う。スーツのおかげで体を貫通することはないが、マントが破れて落下してしまう。いくら休息していたとはいえ、前回よりも多い敵にドルナ假面はよろけてきた。

 栄治はそれを遠巻きで見ていた。優が飛び立った後、公園で騒ぎがある事を聞いて駆け付けていた。
「くそっ、俺も変身できれば…おい!今が正に「どうしても必要な時」だろ!何とか言えよグラナァ!」
栄治が小さな声でそう叫ぶと、閃光が走った。グラナ假面は言った。
「一つだけ約束してほしい。優が何を言っても、ちゃんと聞き入れて、認めて、受け入れてあげて欲しい。これを守ると誓うなら仮面とマントをあげよう」
「え、それだけ?…全然大丈夫だ!!」
閃光が止むと、二人目の假面ヒーローが居た。ドルナ假面と少し似ているが、黄色くて頭の上に長い耳が二つある。幸せ運ぶノラウサギ、ラヌガ假面である。

※ラヌガ(形)〔エスぺラント lanuga〕 綿羽のような。産毛のような。
 (ニュアンスはモフモフ仮面)

 ラヌガ假面は素早い動きと聴覚の鋭さが持ち味。二人は力を合わせて広場に居た千人程の悪党を倒し、最終的にラヌガのもう一つの武器である綿で包み込んでボール状に丸めた。ラヌガ假面はそれを天高く蹴りあげると、綺麗な花火になった。
 (メモ:もっと描写を細かく?)


公園から離れ、変身を解いた二人。
「ありがとう、廣野くん」
「なぁに、友人を助けるのは当たり前だろ?」
「そうか。…今日も疲れた。さようなら」
「おう!しっかり休めよ!」

 優が帰った後、栄治は公園に戻って、残っていたクラスメイト四人を集めてこう言った。
「ドルナ假面について気にならないか?面白い話があるんだ」

 あれから二人は日替わりで活動をすることにした。月・水・金はドルナ假面、火・木・土・日はラヌガが担当する。ラヌガの方が多いのは、栄治は体力に自信があるからである。しかし、それでも優の体力は回復しない。耳障りなアラームに脅える日々だ。

ピピピピッピピピピッ
ドルナ假面は迷子になってる子を助けようとしたが、もはや言葉をききとれないくらい疲れていた。
「手伝いに来たよー!」
やってきたのは、自分と似たような假面の3人と、ハカセと呼ばれるクラスメイトの富岡円次郎(とみおかえんじろう)。
「たぎる勇気を分けるクマ、クラジャ假面!」
「癒しの花咲かスカンク、レサニガ假面!」
「踊る心を射抜くリス、アミンダ假面!」
名乗りポーズをそれぞれとると、ラヌガ假面がやってきた。
「よぉ、ドルナ假面。あの破片を友人に配って、仲間を増やしてみたぜ。これでもっと楽になるよな!」
(あの破片?おかしいな、渡した覚えは……あ!廣野ってば、看病してくれたあの日、僕が部屋を飛び出した隙に……っ!)
優は、形見を勝手に持ち出された事と、手伝ってくれる仲間が増えたことの間でモヤモヤした。


※クラジャ(形) 〔エスペラント kuraĝa〕 勇敢な。
※レサニガ(形) 〔エスペラント resaniga〕 癒し。
※アミンダ(形) 〔エスペラント aminda〕 可愛らしい。愛すべき。


次の日の学校の帰り。栄治の家で昨日会った三人の假面の子たちと話し合いをすることになった。

緑のクマのクラジャ假面は葛尾イーサン(かつらおいーさん)、おっとりした癒し系の男の子。青いスカンクのレサニガ假面は川内藍(かわうちあい)、クラスの委員長をやってる真面目な女の子。ピンクのリスのアミンダ假面は浪江桜花(なみえおうか)、いつもニコニコ笑っている女の子で、栄治の彼女だ。そして「ハカセ」と呼ばれている富岡円次郎。クラジャの光線銃、レサニガの自由に伸びる鞭、アミンダのリボン、これらの武器を全部円次郎が作ったらしい。
「本当は僕も変身したかったんだけど、もうマスクの破片が無いって言われちゃってね。でも、協力出来ることはしたいと思って、色々作ってみたんだ」
話の流れで、今作っているマシンを紹介された。頭に思い浮かんでいるものが空間投影のように目の前に現れるという代物だ。本当にこの子は小学生なのだろうか?

全員、優のクラスメイトだ。しかし優からしてみれば顔は知っているものの喋ったことがない人たち。ただ、皆は優のことをよく知っている様子で、優は少しそれが怖かった。話を聞いてると、みんなはまるで遊び感覚で参加しているようだ。


栄治は興奮してその機械に近づいてみた。
「すげぇなハカセ!……あれ、触れない」
「そうなんです、まだ映像としてしか出力できないんです」
「なんだよぉ、ちょっとガッカリだわぁ」
(廣野くん、何その言い方。これでも充分すごいと思うけど??)と、優は思った。

「ちょっと栄治!そんな事言うんだったらあんたが作ってみたら?」
(川内さん、その通りだと思う)
「藍ちゃん、そんな事言わないであげて……」
(浪江さん、彼女だから庇(かば)ってあげてる)
「栄治が惨めになっちゃう。栄治みたいなスポーツバカに出来るわけないんだから。」
(全然庇ってなかった。)
「なんだよぉ、俺が何かしたかよぉ!」
バンッ!!円次郎は呼吸を少し乱して机を叩いた。
「栄治くん。前から思ってましたけど、その無神経さにすごく腹が立ちます。すこしは言葉に気をつけて欲しいですね!」
「そ、そういうふうに思ってたのかよ……」
栄治はキョトンとした。ものすごくショックを受けているようだ。

「まぁまぁ。こんなに面白いものがあるんだからみんなで遊ぼうよ」
イーサンはそう言うと、機械にクマのぬいぐるみを投影させた。不思議な子だ、イーサンの一言で皆の顔が緩む。このあと、色々なものを想像してこの機械で遊んだ。
「よし、今日から俺たちは、「団栗戦士(どんぐりせんし)フレンジャー」だ!みんなで協力して頑張ろうな!」
「「「オー!!」」」
「お、おー……?」
優だけ遅れて答えた。
(フレンジャー?大〇愛じゃん)
栄治のネーミングに、少し心に引っかかった優だった。

次の日以降、特に順番も決めずに、5人のうち行ける人が行くという決まりになった。1人ではどうしようもないことが起きた時だけ、他の人も行くことにした。

ある時から、優は夢を見るようになる。もう一人のドルナ假面が優の目の前で罵倒する夢だ。
「お前みたいな偽善者がヒーローをやるなんて、この世の終わりだ。グラナの目を欺けたとしても、私は騙されないからな。授業は真面目に受けない、言い訳はする、親の言うことは聞かないし納得しない、みんなが出来ていることすら出来ない、助けて貰ってばかり、挙げだしたらキリがない。人を呆れさせるようなお前は、人であるかすら疑いたい」

その件で普段から脚がおぼつかなくなり、遂には自力で学校まで歩けなくなった。
「ふざけないで学校に行きなさい」
そう母親に言われても優はもう動けない。
仕方がないので、母親は優を布団から無理やり引っ張り出し、車で送り迎えをするようになった。

「お前は卑怯で、自己中心的で、我儘だ。人としておかしいんじゃないか」
目を覚ましてもなお、もう一人のドルナの声が聞こえてくる。もはや現実と夢の境目が分からない。

それは唐突に起きた。もう一人のドルナ假面を背後から鉄パイプで殴りつける栄治。悽惨な現場に優は目を伏せた。
「お前らはゆうやんの何を見たんだ!お前らに優やんの何が分かる!俺は知ってんだよ!ゆうやんは真面目で、人思いで、優しくて、頑張り屋なんだ!言っても分かんないだろうな!だったらせめてくたばれ!くたばれ!くたばれ!くたばれ!くたばれ!!!」
栄治が鉄パイプで殴ると、血まみれになったドルナ假面は仮面とマントだけを残してフッと消えた。
「ごめんな、勝手に入っちゃった。ハカセに止められたんだけど、見ていられなくて。仮面とマント、ここに置いとく。じゃあな」

目を覚ますと、見たことない部屋。円次郎が何かを作っている、どうやら彼の家のようだ。カレンダーを見ると、幻覚を見てから半年も経っていると知った。
「ごめんね、迷惑をかけちゃって」
「大丈夫です、目を覚ましてくれてよかったですよ」
「廣野くんたちは?」
「えーっと……いつも通りです」
「そうなんだ。また何か作ってるんだね。それは何?」
「えーっと……ちょっと集中してますんで、少し待っててください」
「……はいっ」
優は円次郎の作業を見続けていたが、細かい作業が多くて目が痛くなってやめた。
「ちょっと外に行ってくる」
「わかりました、今日は天気がいいから気持ちよく散歩できそうですね」

玄関を出ると、そこには親友の信五が居た。
「信五!会いたかった・・・!」
信五を抱きしめる優。頭をなでる信五に言いたいことをぶつける優。
「ねぇ、聞いて。僕、憧れていた物に成れたんだ。何かは秘密だから言えないけど。でも、向いてなかったかもしれない。平和を願っているのに、近くにいる栄治のことを好きになれない。僕のことを助けてくれるし、いい人ではあるはずなのに。最低だよね、僕って。このまま投げ出してしまいたいけど、逃げるのは卑怯だと思う。もう、何もかもが分からなくて」
「そうか、よしよし。でも、安心して。グラナはいつも優の事を見ていたし、それで優が後継者として一番目に選んだんだ。それに、誰かを嫌うっていう感覚と向き合えるっていうのは、ヒーローになるのに見落としがちだけど、大事なことだと思うよ。嫌いな人が居るっていうのは、生き物としては自然の事だからね。」
陽の光に目が眩む瞬間にグラナに変わる信五
「ごめんね、姿を消してしまって。ごめんね、嫌いな人が仲間になるようなことになってしまって」
「ううん、信五は悪くないよ。あの時、全力で断らなかった僕もわるいっていうか」
「そうだね、あの子の行動力は凄まじいな、あの時は参ったなぁ」
「あれ、ゆうやん、それにグラナ??」
(後で埋める)
「栄治くん、優をよろしくな。約束、覚えているか?」
「ゆうやんを受け入れる!優やんが何て言おうと、俺はいつでも優やんの味方だ!」
「その通り!」
そう言うとグラナは、栄治の頭をくしゃくしゃと撫でる
「じゃあ、僕はこの辺で!また会おう!」
グラナは雲へ向かって消えた。


「たすけてぇーーー!!!」
優の耳に助けを求める声が届いた。
「今、誰か喋った?」
「いつものヤツだろ?助けを求めてる人が居るってことだ!俺、行ってくる!」
優は戸惑った。今まで電子音だったものが、人間の声に変わっていたのだ。そして、栄治は前からそれを人の声として認識していたようだ。
「たすけてくれぇー!!!」
「だれかぁーー!!」
「たすけてぇーーー!!」
助けを求める声はより多く、より大きくなっていった。
優は、深呼吸を三回して駆け出した。
「よし、行こう!」

現場に着くと、既にグラナ、レサニガ、アミンダが来ていた。
「おかえり、ドルナ!」
異口同音に優の復帰を喜んだ。
「いままで何も出来なくてごめん!あれ、クラジャは?」

三度登場、黒い集団。沢山の人質の中に、クラジャ假面が居た。
「さぁ、人質を解放して欲しければ、マスクと仮面をよこせ!さもなければコイツを使う」
彼らが見せたのは、ボウリングボールサイズの
爆弾だ。
「これには、新型のグレイブルーウイルスが入っている。 大人は覚えているだろう?30年前、この街一帯の人間を追いやった俺たちの人工ウイルスだ。さぁ、どうする?グラナ假面の真似をする皆さんは」

答えに迷った。
「黙っていちゃ分からないなぁ。そうだ、面白いことをしてやろう」
クラジャ假面は銃で薬を打たれ、猛獣のように暴れだした。
「しっかりしてクラジャ!」
クマのように引っ掻いたり光線銃を乱れ打ちしたり、他の假面戦士を瀕死状態にした。
「グハハハハハッ!!!」
イーサンが今までした事の無い笑い方をする。
そして悪党から爆弾を受け取り、スイッチを押してしまった。

空からクマのぬいぐるみが落ちてきた。それを見てクラジャ假面は正気に戻り、自分がしてしまったことに気付き焦り出す。
「あ、どうしよう!!爆発しちゃう!!」

「大丈夫!僕が来たからぁーーー!!」
上空からの叫び声に目を向けると、ドローンを背中に付けたヒーローが来た。手には本物の爆弾を持っている。
「来たぜ、追加戦士枠〈シルバー〉が。鋭い脳の子アリクイ、トランチャ假面だ。やっと出来上がったか、円次郎」
これは栄治の作戦だった。ほかの仲間には知らせず、最後の切り札として円次郎を取っておいたのだ。

※トランチャ(形)〔エスペラント tranĉa〕 身を切るような。鋭い。

「レサニガ!これを使って!!」
トランチャは空からペチュニアの花を落とした。
「レサニガがそれを持って、皆は手を上にかざして!」
トランチャの言う通りにやると、全員の体がみるみる回復した。

ここから一気に悪党共を倒す。
アミンダのリボン、レサニガの鞭、クラジャのパンチ、ラヌガのキック、そしてドルナの針攻撃。さらに空からトランチャがブーメランで応戦する。

敵の最後の一人(中心人物と見られる)がグライダーで逃げようとした。六人は飛んで追いかける。
中々追いつかなかったが、敵が急に静止した。彼の足を逆方向に引っ張るグラナ假面が現れた。
「グラナ!生きてたんだね!!」
優は感動した。そしてグラナは、遠心力で敵を宇宙へ投げ飛ばした。

夜、たくさんの花火が上がった。例によってラヌガ假面の仕事である。
丘の上で七人はそれぞれ寝転びながら花火を見ていた。
「ねぇ、栄治。ちょっと来て。話したいことがあるんだ」
優は栄治と2人になれるところに行った。


「ごめんね。僕は、栄治のことが心底嫌いなんだ。いくら友達だと君が思っていてくれても、殴られたら痛い。それに、僕が悩んでいるといつも「考えすぎなくていい」って笑うよね。「あぁ、考えたくなくても考えちゃう僕の気持なんか分かるわけないか」ってイライラする。そうだ、勝手に僕の部屋からマスクの破片を持っていったよね。今までで1番腹が立った。正直、未だに許せない。あの時の僕にとっては形見だったから。でも、世界を良くしたいって言う気持ちはあるんだよね、僕も君も。君のことが嫌いな僕だけど、フレンジャーのメンバーとして、君の友達としてこれからも居てもいいかな?」
栄治はスナップを効かせて優の肩を叩いてあげようとしたが、首を振りながら手を止めた。そして、優を抱きしめて言った。
「今まで気づけなくてごめんな」

【おわり】


※グラノ(名)〔エスペラント glano〕 どんぐり。
 グラナ(glana)はグラノを無理やり形容詞形にしたもの。

※ブルジョーノ(名)〔エスペラント burĝono〕 芽。つぼみ。
 古園(ふるぞの)市の名前の由来。キャラクターの苗字が福島県「双葉」郡の町村名を由来にしていることから。